○慰謝料は必ず発生するとは限らない
夫婦が離婚するときには慰謝料を請求することがよくありますが、離婚をするからと言って、必ずしも慰謝料が発生するとは限りません。
そこで、具体的にはどのような事例で離婚慰謝料を請求できるのかが問題となります。
また、離婚慰謝料の金額は一律ではないので、どのような場合に増額されるのかも知っておきましょう。
今回は、離婚慰謝料が発生するケースと慰謝料の増額事由について解説します。
目次
1.離婚慰謝料とは
夫婦が離婚する場合、相手に対して慰謝料を請求することが多いですが、この場合の慰謝料のことを、離婚慰謝料と言います。
離婚慰謝料とは、夫婦の一方に非があって離婚原因を作った場合、その配偶者が相手に対して支払うべき慰謝料のことで、離婚慰謝料も1種の損害賠償金です。
ただし、離婚慰謝料は、どのような離婚のケースでも発生するというものではなく、発生する場合の金額もケースによってさまざまなので、離婚時に相手に慰謝料請求する場合には、ケースに応じた対応が必要です。
2.離婚慰謝料が発生する場合
離婚慰謝料は、常に発生するわけではありませんが、具体的にどのような事案で発生するのでしょうか?
慰謝料は、違法行為によって離婚原因を作ったことによって発生するものなので、離婚原因と密接にかかわります。
そこで、まずは、法律上の離婚原因にはどのようなものがあるのかを見てみましょう。
民法では、裁判上の離婚原因は以下のとおり定められています。
- 不貞(民法770条1項1号)
- 悪意の遺棄(同第2号)
- 3年以上の生死不明(同第3号)
- 回復しがたい精神病(同第4号)
- その他婚姻を継続し難い重大な事由(同第5号)
2-1.不貞
夫婦の一方または双方に不貞があると、離婚原因となります。不貞とは、一般的には不倫や浮気と呼ばれるものですが、離婚原因となる「不貞」と言うためにはいわゆる男女関係(肉体関係)があることが必要であり、単に食事をしたりデートをしたりしているだけでは離婚原因になりません。
不貞は違法行為なので、不貞がある場合には、離婚慰謝料が認められます。
また、不貞が行われる場合、配偶者が1人で行うのではなく相手も一緒になって違法行為を行うので、慰謝料は、配偶者のみならず不貞相手に対しても請求することができます。
2-2.悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、悪意をもって配偶者を見捨てることです。典型的なのが、夫が家を出て行って妻に生活費を払わなくなるパターンです。
悪意の遺棄も違法行為なので、これが離婚原因となる場合には離婚慰謝料が認められます。
2-3.3年以上の生死不明
配偶者が生死不明の状態が3年以上続いた場合にも、離婚原因となります。この場合、生死が不明であることが必要なので、たとえ行方不明であっても生きていることが明らかな場合には離婚できません。
また、3年以上生死不明というだけでは、配偶者が違法行為をしたとは言えないので、離婚慰謝料は発生しません。
2-4.回復しがたい精神病
配偶者が回復しがたい精神病にかかり、夫婦関係の継続が困難なケースでも離婚が認められます。回復しがたい精神病で離婚が認められるのは、躁うつ病や偏執病、統合失調症などが酷く、婚姻関係を継続していくことが難しいケースに限られます。ヒステリーやアルコール中毒などの場合には回復しがたい精神病とは言えません。
また、相手が回復しがたい精神病にかかったからといって、相手に非があるとは言えません。よって、この理由で離婚する場合にも、離婚慰謝料は請求できません。
2-5.その他婚姻を継続し難い重大な事由
上記に挙げた4つの原因以外にも、婚姻を継続することが難しい重大な事由がある場合には離婚が認められます。
たとえば、夫が酷いDVやモラハラ行為に及んでいるケース、性格の不一致が酷く夫婦双方が離婚を望んでいるケース、ギャンブルや配偶者の実家との不和によって夫婦関係が破綻してしまったケースなどで、離婚が認められることが多いです。
これらのその他の離婚原因の場合、慰謝料が認められるかどうかはケースによって異なります。
たとえば、DVやモラハラなどがあった場合、それは違法行為ですので慰謝料が認められやすいです。
これに対し、性格の不一致があっただけの場合、どちらが悪いとも言えないことが多いので、慰謝料が発生しないことが普通です。
借金があるからといって慰謝料が発生するわけではありませんが、ギャンブルにはまって生活費を家に入れなかった場合などには、「悪意の遺棄」が成立することにより慰謝料が発生することがあります。
正当な理由なく性交渉を拒絶し続けたケースなどでも、慰謝料が認められることがあります。
相手の実家と折り合いが悪かった場合、相手自身に非があるとは言えないので慰謝料は基本的に認められませんが、相手が何のフォローもせずに実家の言いなりになって、自分も配偶者に辛く当たっていたようなケースでは、慰謝料が認められることもあります。
3.離婚慰謝料の金額の相場は?
離婚慰謝料が認められる場合、その金額の相場がどのくらいになっているのかが問題ですので、以下でその相場を見てみましょう。
3-1.不貞
不貞があった場合、比較的高額な慰謝料が認められ、具体的には300万円程度が相場となっています。
ただ、慰謝料は夫婦の婚姻年数などの要因によって大きく変動します。
たとえば夫婦の婚姻年数が1年~2年程度の場合には、不貞があっても慰謝料は100万円程度にしかならないことも多いです。
3-2.悪意の遺棄
悪意の遺棄があった場合の慰謝料の金額は、だいたい100万円~200万円程度です。ただ、この場合も夫婦の婚姻年数や、どのくらいの間遺棄が続いたかなどによって金額が異なります。
たとえば生活費を支払わなかった場合、不払いの期間が長くなればなるほど、離婚慰謝料の金額は高くなります。
3-3.DV、モラハラ
DVやモラハラなどの行為があった場合の慰謝料の金額の相場は、だいたい50万円~200万円程度です。この場合も、暴力の態様などによって大きく金額が異なります。
頻繁に激しい暴力を振るっていた場合には慰謝料の金額が高くなりますし、反対に、頻度が低く一回の暴力の程度も軽い場合や妻が怪我をしていない場合などには、慰謝料の金額は低くなります。
3-4.その他のケース
夫婦の一方が理由なく性交渉を拒絶し続けたり、実家との不和を助長したりして離婚原因を作った場合などには離婚慰謝料が認められることがありますが、これらのその他の理由による場合の慰謝料の金額は、具体的な離婚原因によって大きく異なります。
ただ、概してさほど高額になることは少なく、だいたい数十万円~100万円程度になることが多いでしょう。
具体的には、ケースごとに専門家に相談して判断してもらう方が正確です。
4.離婚慰謝料が増額されるケース
離婚慰謝料には上記のような相場がありますが、どのようなケースに増額されるのか、離婚慰謝料の増額事由を見てみましょう。
4-1.婚姻年数が長い
婚姻年数が長い夫婦であるほど、離婚慰謝料は高額になります。たとえば、不貞慰謝料でも、1年程度の夫婦なら100万円にもならないことがありますが、10年程度の夫婦なら300万円程度になるのが相場です。
4-2.不貞の期間が長い、不貞の態様が悪い
不貞が原因で離婚する場合、その期間が長かったり態様が積極的であったりすると、慰謝料が高くなります。たとえば、交際相手と会って家に帰ってこない日が続いたケースなどでは、慰謝料は高額になります。
4-3.暴力の頻度が高い、暴力の程度が酷い
暴力の頻度が高かったり、程度が酷かったりすると慰謝料は高額になります。たとえば、週3回くらい、1回について3~4時間程度以上の暴力が振るわれていたら、150万円以上の慰謝料が認められることも多いです。これに対し、暴力の頻度は3ヶ月以下で、一回の暴力は1時間にも満たないという場合には、慰謝料の金額は100万円以下になることが普通でしょう。
4-4.生活費不払いの期間が長い、配偶者が精神病になっている
相手の違法行為によって、配偶者がうつ病などの精神病にかかってしまった場合には、慰謝料が高額になります。
4-5.配偶者が仕事を辞めてしまった
相手の違法行為によって配偶者がバランスを崩し、仕事を辞めてしまった場合にも慰謝料が高額になる傾向があります。
4-6.妻が専業主婦で生活不安がある
慰謝料の支払いを受ける妻が専業主婦などで、離婚後の生活に不安があるケースなどでは慰謝料が高額になりがちです。
4-7.未成年の子がある、未成年の子の数が多い
夫婦の間に未成年の子がいると慰謝料は上がりますし、未成年の子どもが多ければ慰謝料の金額はさらに増額されます。
4-8.支払う側の収入が高い、支払う側の社会的地位が高い、支払う側の年齢が高い
慰謝料を支払う側の収入や社会的地位、年齢などが高い場合には、慰謝料が高額になることが多いです。たとえば大学教授や医師、政治家などの場合、単なるサラリーマンなどよりも慰謝料が高額になりがちです。
年齢が高い場合にも、分別を持っているべきと言う判断があるので、慰謝料が高額になることが多いです。
4-9.複数の慰謝料支払い要因がある
複数の慰謝料支払い要因がある場合、慰謝料の金額が高額になることが多いです。
たとえば、別居を強行して生活費を支払わずに悪意の遺棄が認められるケースでも、その理由として別の女性と不貞していて、そちらとの生活があることが原因であった場合には、不貞と悪意の遺棄の双方の慰謝料支払い要因があるので、慰謝料が高額になります。
また、性交渉の拒絶によって慰謝料が発生する場合でも、その理由として他の異性との不貞があった場合、性交渉の拒絶と不貞の両方の慰謝料発生要因があるので、やはり慰謝料の金額が高額になります。
このように、複数の慰謝料発生要因がある場合、慰謝料の金額は300万円以上になってくることもあります。
5.証拠を集めることが重要
相手に対して高額な慰謝料を請求したいなら、相手に非があるという事実の証拠を集めておくことが大切です。たとえば不貞の場合なら相手のメールやSNSの画像、記録、興信所の報告書などを集めます。DVの場合、日記や診断書が役に立つこともあります。
証拠があってはじめて、こちらとしても強気で有利に交渉をすすめることができますし、いざというときに裁判で勝つこともできます。
6.協議離婚の方が高額になる?
高額な離婚慰謝料を請求したい場合、協議離婚の方が有利に進められるケースがあります。
上記のように、離婚慰謝料には相場がありますが、これは裁判によって離婚する場合のものです。
当事者同士が話し合って離婚条件を決める場合には、特に上記の相場に縛られることなく,自由に慰謝料の金額を決定することができるので、相手さえ了承すれば、1000万円の慰謝料を定めてもかまわないのです。
このことは、協議離婚だけでなく調停離婚でも同じです。
また、協議離婚や調停離婚で当事者が話し合って離婚慰謝料を決める場合には、分割払いにすることもできます。
裁判離婚で慰謝料を決定したもらうときには、一括払い命令になるので相手に資力がないときには、判決通りに支払いを受けることが難しくなりますが、協議離婚で分割払いにする場合には、相手に財産がなくても、高額な慰謝料を定めることが可能です。
ただし、これはあくまで相手が協議や調停で支払に応じた場合の話です。
協議離婚の話し合いをしても、相手が頑なに離婚を拒絶したり慰謝料支払いを拒絶したりした場合には、慰謝料を受け取ること自体できません。
このような場合には、裁判によって相手に慰謝料支払い命令を出してもらうしかなく、その場合には上記の相場によって慰謝料の金額を決められることになります。
7.弁護士に依頼する方法がおすすめ
離婚の際、なるべく高額な慰謝料を相手に請求したい場合には、離婚の手続きを弁護士に依頼することをおすすめします。
自分で対応する場合、そもそも自分のケースで慰謝料が発生するのかわからないことが多いですし、慰謝料が発生するとしてもどのくらい請求できるのかがわからないこともよくあります。どのような手続きで慰謝料の話し合いをすすめるべきかが適切に判断できず、本来なら慰謝料支払いを受けられる場合でも、支払いを受けられなくなる可能性もあります。
弁護士に手続きを依頼したら、まずは慰謝料が発生する事案かどうかを判断して、相手に対して適切に請求手続きをすすめてくれます。
交渉も得意なので、有利に離婚協議をすすめて、こちらが高額な慰謝料を受け取れるようにしてくれますし、相手が慰謝料支払いに応じない場合には、裁判にして争うこともできます。
DVなどの場合には、当事者が相手と直接話をすることが困難ですが、弁護士に間に入ってもらったら安心です。
このように、離婚慰謝料を請求する場合には、弁護士に相談して依頼することが重要ですので、今、離婚を考えている人は、まずは離婚に強い弁護士に相談に行って話を聞いてみると良いでしょう。
○まとめ
今回は、離婚慰謝料が発生する場合と慰謝料が増額されるケースについて、解説しました。
離婚慰謝料は「相手が違法行為により離婚原因を作った場合」に発生します。たとえば、不貞や悪意の遺棄、DVなどがあったケースなどです。
離婚慰謝料の金額には相場がありますが、具体的な金額はケースによって異なります。
なるべく高額な慰謝料を請求したいなら、まずは離婚に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
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