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離婚をする場合には、夫婦に共有財産があると、財産分与請求をすることができます。
財産分与の対象になる財産は、夫婦が婚姻中に積み立てたすべての財産なので、預貯金や不動産(自宅など)、生命保険、株式などが対象となりますが、夫婦の一方がサラリーマンなどで、退職金の支給が予定されている場合にはどのような扱いになるのかが問題です。退職金は、離婚後の将来にもらえるものですが、これも財産分与の対象にすることができるのか、できるとしたら、どのようにして計算するのかを抑えておきましょう。
今回は、離婚時財産分与で退職金を請求できる場合と計算方法をご説明します。
1.財産分与の対象
夫婦が離婚する場合、夫婦の共有財産は財産分与の対象になります。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に積み立ててきた財産について、離婚時に双方に分配する手続きのことです。夫婦の財産は、婚姻中は共有になる部分が多いので、離婚時には、きちんと清算しておかなければなりません。そのため財産分与をします。
財産分与をする場合、離婚時に存在する夫婦共有財産を明らかにして、それを半分ずつ(2分の1ずつ)の割合で分けることが多いです。
財産分与の対象になるのは、夫婦が婚姻中に積み立てたすべての共有財産です。
たとえば、夫婦がそれぞれの給料から積み立ててきた預貯金や婚姻中に掛け金を払い込んだ生命保険、婚姻中に購入した自宅不動産や株券、貴金属などが対象です。
これに対して、夫婦のどちらかが独身時代に貯めていた預貯金や、独身時代から持っていた財産は、特有財産になるので財産分与の対象になりません。
財産分与はあくまで「婚姻中に夫婦が積み立てた財産」が対象なので、このように「婚姻期間外」に作った財産については、対象にする余地がないからです。
ここで、退職金が財産分与の対象になるのかが問題になります。
財産分与は、夫婦の婚姻中に夫婦が積み立てた財産しか対象にならないはずですが、退職金は、婚姻期間終了後の将来に受け取ることがあるからです。
以下で、退職金を財産分与の対象にすることができるのか、ケースごとに見てみましょう。
2.退職金が支給されてから離婚する場合
まずは、退職金が支給されてから離婚するケースを考えてみましょう。
夫が退職をして、会社から退職金が支払われてから離婚する場合です。
この場合、退職金は、すでに受け取り済みなので、問題なく財産分与の対象にすることができます。このとき、退職金は、「退職金」としてではなく、預貯金などの形を変えた財産になっています。振り込まれた退職金を投資信託などにして運用していたら、投資信託という財産になっています。
そこで、すでに退職金が支給されたケースでは、形を変えた退職金を、その項目の財産として評価して、財産分与の対象に含めて計算します。
たとえば、3000万円の退職金が振り込まれて預貯金口座に入っている場合には、3000万円の退職金が財産分与の対象になるということです。
3.退職金支給前に離婚する場合
離婚時財産分与で良く問題になるのは、退職金支給前に離婚する場合です。この場合には、将来の退職時に支給される退職金を、そもそも財産分与に含めることができるのかという問題が発生します。
離婚時財産分とは、「婚姻中に積み立てた財産」を対象にするものなので、将来受け取る退職金はその対象にならないとも考えられます。
ただし、退職金は、賃金の後払いという性質を持っています。つまり、普段働いている分の賃金の一部が少しずつ積み立てられて、将来まとまった退職金として受け取れるという考え方です。そこで、婚姻期間中に働いた分に対応する部分の退職金については、婚姻中に積み立てた財産であると言えるので、財産分与の対象にすることができます。
4.退職金を財産分与に含められるケース
退職金も財産分与の対象に含めることができるとは言っても、どのようなケースでも財産分与対象になるわけではありません。
退職金は、将来本当に支給されるかどうかが不確かなものです。
たとえば、若い人が離婚する場合、将来会社を辞めてしまう可能性や転職する可能性もありますし、会社が退職金制度の運用方法を変えてしまうこともありえます。また、会社が倒産して、退職金を全く受け取れなくなる可能性もあります。
このように、退職金は、本当に受け取れるかどうかが未確定なので、退職金を財産分与に含めることができる場合は、退職金の支給の蓋然性がある程度高い場合に限るべきです。
あまりに退職時期が遠い場合や、退職金の支給が行われそうにない会社のケースなどでは、退職金を財産分与の対象にすべきではありません。
退職金を財産分与の対象にできるケースは、以下のような場合です。
4-1.退職金支給時期が近いこと
退職金支給時期があまりに遠いと、本当に退職金が受け取れるかどうかが不確定なので財産分与の対象にはできません。だいたい、10年以内に退職するかどうかで判断します。10年以内に退職する予定であるなら、財産分与に含めますが、裁判実務でも、10年以上先の退職予定の場合には退職金を財産分与対象にしないことが多いです。
4-2.退職金が支給される蓋然性が高い勤務先であること
勤務先がどのような場所かも重要です。上場会社できちんと退職金規程なども整備されていて、退職金が支給される蓋然性が高い場合には退職金を財産分与の対象に含めることができます。公務員の場合にも、退職金支給規定が明らかなので、退職金の財産分与請求がしやすいです。これに対して、中小の会社や退職金規程もないような会社では、退職金を財産分与対象に含めることは難しくなります。ただ、中小企業であっても、近い時期に退職することが決まっていて、具体的に退職金の支給が決定している場合などには、退職金を財産分与の対象にすることができます。
5.退職金の計算方法
5-1.退職金計算の基本
将来受け取る退職金を財産分与の対象にすることができるとしても、将来の退職金をどのようにして計算するかが問題になります。
退職金は、すでに支給が決まっているようなケースでは、その金額を基準にすれば良いですが、将来受け取るという場合には、今いくらとして計算したら良いのかわからないのが普通でしょう。
このような退職金見込額の計算の際には、勤続年数と退職金支給率を使います。退職金支給率とは、退職金計算のために、ケースに応じて使用する係数のことです。
退職金見込額は、通常以下の計算式で計算します。
「退職金見込額=基本給×退職金支給率」
このように、退職金見込額は、退職金支給率が高くなればなるほど高額になるのが普通です。
退職金支給率は、勤続年数と退職理由によって異なります。
勤続年数が長くなると、退職金支給率は高くなります。
退職理由については、自己都合退職と会社都合退職(定年退職も同じ)があり、会社都合退職や定年退職の場合の方が退職金支給率の値は高くなります。
このようなことから、勤続年数が長くなると、退職金の金額は上がります。勤続年数が2倍になると、退職金は単純に2倍になるのではなく、2倍以上になることが普通ですし、3倍や4倍以上になることもあります。
また、退職金規程は、各会社が自由に定めることができるので、退職金支給率は、各会社によって異なります。
たとえば、入社3年目までは退職金が出ないことにしている会社もありますし、学歴(高卒、大卒、大学院卒など)や会社での最終的な役職(部長や課長など)によって退職金支給率が異なるケースもあります。
退職金見込額を計算する場合、自分の勤務先での退職金計算方法がどうなっているのかを調べる必要があります。
5-2.退職金の具体的な計算方法
以下では、具体的な退職金の計算事例を見てみましょう。
勤続10年のサラリーマンで、自己都合退職のケースで、退職金支給率が5.79だとします。基本給は30万円だとしましょう。
この場合、退職金見込額は
30万円×5.79=1,737,000円となります。
次に、勤続20年のサラリーマンで、自己都合退職のケースを考えてみましょう。
この場合、基本給は40万円で、退職金支給率が23.36だとします。
このケースでは、退職金見込額は
40万円×23.36=9,344,000円となります。
勤続30年のサラリーマンで、基本給は40万円のケースを考えてみましょう。この場合、自己都合退職で、退職金支給率は42.65とします。
このケースでは、退職金見込額は
40万円×42.65=17,060,000円となります。
上記はモデルケースですが、このような計算例からしても、退職金は、単純に勤続年数が2倍になったら2倍の金額になるわけではなく、勤続年数が長くなると、数倍以上になることが多いことがわかります。
6.退職金見込額の調べ方
自分の場合、具体的にどのくらいの退職金が出ることになるのか、調べる必要をご紹介します。
退職金制度は、法的に一定の基準を強制されるものではなく、各会社がそれぞれの判断で退職金の支給をしています。支給する場合の基準も一律ではありません。そこで、退職金見込額を計算するには、会社の退職金規程を確認する必要があります。その内容に従って計算すれば、退職金見込額を計算することができます。
退職金規程は、会社にもよりますが、一般的には、就業規則の末尾に設けられていて、退職金支給率の表がついていることが多いです。ただ、退職金規程が独立してもうけられている会社もあり、さまざまです。
退職金制度は強制ではないので、退職金規程がない会社もあり、そのような会社では退職金が出ないことが多いので、注意が必要です。
7.退職金の財産分与請求は弁護士に相談しよう
退職金を財産分与に含めて請求すると、その分多額の財産分与を受けることができるので、助かります。
また、相手の勤続年数が長い場合などには、多額の退職金を財産分与に含めることができるので、とても有利になります。しかし、退職金を財産分与請求する場合、特に退職金の支給をまだ受けていないケースでは、相手が退職金の分与に応じず、トラブルになることが多いです。
また、未支給の退職金を財産分与に含める際には、具体的にどのような方法で計算すべきかが問題になり、自分では正確に計算することができないことも多いです。
このように、退職金を財産分与請求する場合には、いろいろな問題が起こるので、手続きを弁護士に任せることがおすすめです。
弁護士であれば、適切なケースで退職金を財産分与に含めて、正確に退職金を計算し、相手に対してきちんと財産分与請求をすることができます。
自分で請求をする自信がなかったり、自分で相手に言ってみたけれどうまくいかないで悩んでいたりするケースでは、まずは一度弁護士に離婚の相談をしてみましょう。
まとめ
今回は、離婚時財産分与に退職金を含めることができるケースと、退職金の基本的な計算方法をご紹介しました。
退職金の支給時期が近い場合や、退職金支給の蓋然性が高い勤務先である場合などには、退職金も財産分与に含めることができます。退職金の計算の際には、退職金支給率が問題になりますが、退職金支給率は、勤続年数が長ければ長いほど高くなります。
退職金は、勤続年数が長い人の方が高額になることが普通です。
退職金を財産分与に含めて計算をしたり、相手に未支給の退職金の財産分与請求をしたりすることは、自分で対処すると難しいことがあります。不安がある場合には、弁護士の離婚相談を受けてみると良いでしょう。
今回の記事を参考にして、賢く財産分与手続をすすめましょう。
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